薪窯の土が語る日々のリズム—石原 稔久の器と制作哲学
John Parsons
Published Sep 01, 2026
石原 稔久(いしはら としひさ)は、福岡県宮若市で制作を続ける陶芸家です。1973年生まれで、武蔵野美術大学の彫刻科を経て茨城の笠間で修業。薪窯と手びねりを軸に、塗装や釉薬を控えた質感と色の揺れで“毎日使える器”を形にします。
問いはシンプルです。なぜ、毎日使う器は「特別」より強く残るのでしょう。石原は焼き上がりの時間や土の呼吸を優先し、使うほど馴染む表情を狙います。作品の中心には「リズムを守る」姿勢があります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 氏名 | 石原 稔久(Ishihara Toshihisa) |
| 生年 | 1973年 |
| 居住地 | 福岡県宮若市 |
| 学歴 | 武蔵野美術大学 彫刻科 卒業 |
| 修業先 | 茨城県 笠間窯業指導所 |
| 制作の軸 | 手びねり+薪窯焼成 |
| 特徴的な仕上げ | 塗装・釉薬を抑えた「カサッと仕上げ」 |
| 関連活動 | 器だけでなく動物・人物の人形、絵本やイベント協力 |
| 今後の動き | 2025年12月に東京・吉祥寺で「特別な1つ」展予定 |
石原 稔久を形づくる経歴:美大の彫刻から陶へ
石原 稔久の足取りは、陶芸一本ではありません。武蔵野美術大学の彫刻科を卒業し、その後は茨城県の笠間窯業指導所で修行を重ねています。彫刻科で学んだ“形を削り出す感覚”は、土を相手にする陶芸にもそのまま持ち込まれているように見えます。
転機は2000年。福岡へ移住し、自身の薪窯を築きました。移住後、薪窯を軸にした環境づくりが制作の中心に据えられます。電気やガスの一定した温度とは違い、薪窯は季節や火力、炭の燃え方で結果が揺れます。その揺れを避けるのではなく、作品の表情として受け止める方針が読み取れます。
手びねりと薪窯:温度が“偶然”ではなく“表情”になる
石原の技法の核は手びねりです。轆轤(ろくろ)で均一に引き伸ばすのではなく、指先の圧と速度で土の厚みや輪郭を調整していく方法。手びねりは、作り手の体温がそのまま残りやすい技法とも言われます。
そこに薪窯焼成が加わります。薪窯は、焼成の過程で色や質感がじわりと変化します。結果は“当たり前に正解が出る”ものではなく、その日その時の火の癖が色の差として出ます。石原はその揺らぎを排除せず、むしろ作品の魅力として組み立てています。
「カサッと仕上げ」と色の抑制:見るより先に触れさせる
石原の作品を印象づけるのは、派手さではなく手触りです。塗装や釉薬を抑えた仕上げで、表面には“カサッとした感触”が残ります。ここで言う抑制は、単なる手抜きではありません。土の質そのもの、削りの痕、焼成による微妙な差を活かすための選択です。
さらに削りと色取りで、独自の表情を作っていきます。器という実用品でありながら、表情は彫刻のように立体感を持つ。正面だけで完結せず、指を滑らせる角度で見え方が変わる作りです。結果として、鑑賞者は“見る時間”だけでなく“使う時間”に自然へ導かれます。
日常に溶ける器:父の影と「リズムを守る」哲学
石原が創作の根底で語るのが「リズムを守る」という姿勢です。背景には、父が陶芸家として働いていたことがきっかけにあるとされます。家庭の中で“作る人の生活”を見てきたからこそ、作品が完成品として置かれるより、日々の暮らしの中で育っていく姿に価値を置けるのだと思えます。
本人は、作品は「毎日使うことで自然に汚れが味になり、長く使える」と語っています。ここで重要なのは、汚れを美化しているわけではない点です。むしろ、暮らしの中で生まれる変化を“失敗”にしない設計思想だと言えます。使うほど表面が変わる器は、所有のためではなく共に暮らす道具として機能します。
石原の器は“派手に飾る”より、“生活に馴染む”ことを先に決めているように見える。だから焼き上がりの不揃いすら、日常のリズムに組み込まれていく。
器だけではない:動物・人物の人形と、絵本やイベントへの関与
石原 稔久は器だけを作っているわけではありません。動物や人物をモチーフにした人形も制作し、造形の幅を広げています。器の丸みや厚みの調整ができる人なら、人形の“表情の癖”も同じ技術の延長線上にあるはずです。
また、絵本やイベントにも協力していると伝えられています。工房で完結する制作から一歩外へ出ることで、作品は空間の温度や人の動きと結びつきます。器を展示室で見るのと、イベントで触れてみるのとでは、体験が変わる。石原の関わりは、そうした“場の力”を理解していることの証拠にもなります。
販売と発信:公式オンラインショップと全国の展示の動き
公開情報によれば、石原の作品は公式通販サイト・オンラインショップで販売されています。現代の陶芸は、対面販売だけではなくオンラインでの出会いが増えていますが、石原のように“触感や色の揺れ”が魅力の作家にとって、写真や説明文だけで価値をどこまで伝えられるかは難題です。そのため、販売の場では作品の性格を丁寧に言語化する姿勢が求められるはずです。
加えて、全国各地で工房体験や動物園展、音楽フェスなど多岐にわたるイベントに参加しているとされています。陶芸は制作の工程が長く、焼成の結果が毎回同じとは限りません。だからこそ、イベントの場で“次の焼き”を見せ続けることは、作家と観客の信頼を積み上げます。
2025年末の個展予定:東京・吉祥寺「特別な1つ」展
今後の大きな節目として、2025年12月に東京・吉祥寺で「特別な1つ」展が予定されています。吉祥寺は文化発信の密度が高い街として知られ、日常の中でアートに触れる人が集まりやすい場所です。石原の“毎日使う器”という理念と相性が良い企画と言えます。
「特別な1つ」という言葉は、作品の個体差を隠すより、むしろ受け止める方向性を示唆します。薪窯焼成の結果が毎回変わる以上、唯一性は偶然ではなく制作の条件。展示名からは、その唯一性を日常へ返す意図がにじみます。
石原 稔久の魅力を一言で:生活の中で育つ“焼きの時間”
石原 稔久の仕事を追うと、派手な装飾よりも、焼成と手びねりが生む“時間の痕”に主導権があることがわかります。塗装や釉薬を抑えた表面は、見るだけではなく触れることを促します。使うことで生まれる汚れの変化さえ、味として抱えられる設計思想がある。
そして背後には「リズムを守る」という言葉。制作を職能としてではなく、生活の反復として捉える姿勢が、器の表情にも人形の造形にも現れているようです。次の焼き、次の火の癖。石原の器は、その先にある暮らしのリズムを待っています。
Frequently Asked Questions
石原 稔久はどこで制作していますか?
福岡県宮若市に在住し、制作拠点を構えて陶芸作品を作っています。
主な技法は何ですか?
手びねりを中心に、薪窯焼成で焼き上げるのが大きな特徴です。
作品の仕上げでよく聞く特徴は?
塗装や釉薬を抑えた「カサッと仕上げ」が挙げられ、触感や質感を重視した作風とされています。
器以外に作っているものはありますか?
動物や人物をモチーフにした人形も制作しており、絵本やイベントにも協力していると伝えられています。
今後の展示予定はありますか?
2025年12月に東京・吉祥寺で「特別な1つ」展が予定されています。